固定資産の減損会計について

7.将来キャッシュ・フローの見積り
 意見書は、減損損失を認識するかどうかを判定する場合(割引前将来キャッシュ・フローが用いられる)と使用価値を算定する場合の将来キャッシュ・フローの見積りについて規定している。このほかにも、資産の時価を算定する際に、将来キャッシュ・フローの見積りを用いた評価技法が使われる場合が想定されるが、このような時価評価のためのキャッシュ・フロー見積りについて、意見書は特にふれていない。
 以下、将来キャッシュ・フローの見積りに関する規定を説明する。

(1)企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ること
 
 同じような固定資産でも、その生み出すキャッシュ・フローは、資産を使用する企業に固有の事情――販売力、生産性、技術力、原材料の調達能力、従業員の給与水準、ブランドイメージ等――によって、かなりの程度、左右される。意見書における将来キャッシュ・フローの見積りは、資産の時価算定を目的としたものではなく、企業にとって資産がどれだけの経済的価値を有しているかを算定するために行われるものであるため、見積りを行う際の仮定及び予測には、こうした、企業に固有な事情が反映されなければならない。
 しかし、企業に固有の事情を反映させることが必要であるとしても、キャッシュ・フローの見積りが恣意的なものであっては信頼性に欠けることになる。そこで、キャッシュ・フロー見積りの基礎となる仮定及び予測は、合理的で説明可能なものでなければならないとされている。

(2)現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮するこ

 将来キャッシュ・フローは、現時点における資産又は資産グループの回収可能性を反映するように見積るべきであると考えられる。そのため、意見書は、将来キャッシュ・フローの見積りに際しては、資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮するとしている。
 このことから、計画されていない将来の設備の増強や事業の再編の結果として生ずる将来キャッシュ・フローは、見積りに含めないこととなる。

(3)生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起しうる複数の将来キャッシュをそれぞれの確率で加重平均した金額を見積ること

 将来キャッシュ・フローの見積りの方法には、生起する可能性の最も高い単一の金額(最善の見積り)を見積る方法と、生起しうる複数の将来キャッシュ・フローそれぞれの確率で加重平均した金額(期待値)を見積る方法がある。
 これらのうち、企業の計画等に基づいて単一の金額を見積る前者の方法が一般的であると考えられるが、企業が固定資産の使用や処分に関して、いくつかの選択肢を検討している場合や、生じ得る将来キャッシュ・フローの幅を考慮する必要がある場合には、期待値を用いる後者の方法も有用であると考えられる。このため、意見書では、いずれの方法も適用できるとしている。

(4)利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めないこと

 利息の支払額は、企業が負っている有利子負債から生ずる支出であり、減損処理の検討対象となっている資産又は資産グループと直接的な関連はない。また、使用価値は将来キャッシュ・フローを割り引いて算定されるため、利息の支払額をキャッシュ・フローの見積りから控除すると、貨幣の時間価値が二重に反映されることになる。
 また、企業が投資の意思決定を行う際には、その投資に関連する法人税等を考慮していることからもわかるように、企業にとっての資産の価値は、税引後のキャッシュ・フローによって評価すべきであろう。しかし、法人税等は企業全体の所得に対して生ずるものであり、減損処理の検討対象としている資産又は資産グループと直接的に関連づけようとすると、いたずらに複雑な計算を要することになる。
 意見書は、特に詳しくふれてはいないが、以上のような理由から、利息の支払額、法人税等の支払額や還付額を、将来キャッシュ・フローの見積りに含めないという規定になっているものと考えられる。





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