固定資産の減損会計について

2.海外基準における減損会計とわが国の減損会計基準
 減損会計の審議においては、先行していた海外の減損会計基準の検討が行われた。意見書には、海外基準を参考にした部分もかなりあり、意見書を理解する上でも役立つと思われるので、簡単に紹介したい。

(1)米国基準における減損会計

 米国基準(FAS144号)では、長期性資産の帳簿価額が時価(fair value)を上回っている状態を減損と定義している。しかし、このように定義された減損が生じている場合(つまり、帳簿価額>時価、の場合)に、常に損失を計上するわけではない。継続して使用する予定の資産については、資産の帳簿価額がその資産が生み出す割引前の将来キャッシュ・フローの総額を上回っている場合にのみ、減損損失を認識することとしている。そして、減損損失を認識することとなった場合には、帳簿価額を時価まで減額する。時価までの減額は、減損した資産について、それまでの投資を清算し、その時点で再び同じ資産を買い戻して新しい投資を始めたという擬制に基づいている。減損処理後は、その新しい取得原価に基づいて減価償却が継続される。
 米国基準は、このように、減損損失を認識するかどうかの判定に用いる基準値(割引前将来キャッシュ・フロー)と、減損損失測定の基礎となる金額(時価)が異なっている点に特徴がある。これは、帳簿価額を回収することができない可能性が高くなった時点ではじめて減損損失を認識する「確率基準」を採っているからであるとされている。
 時価が回復した場合に、減損損失の戻入れを認めるかどうかについては、認めない基準となっている。減損処理した時点の時価が、再取得したと擬制される資産の取得原価であるとみなされるからである。
 売却により処分する予定の資産については、使用を継続する予定の資産とは異なる会計処理が定められている。確率基準は適用されず、常に、時価から処分費用を控除した金額まで帳簿価額を減額することが定められている。また、このような資産については、減価償却を行わないこととされている。

(2)国際会計基準における減損会計

 国際会計基準(IAS36号)では、減損会計基準の目的を、「資産に回収可能価額を超える帳簿価額を付さないことを保証する手続を規定すること」としている。IAS36号において、回収可能価額(recoverable amount)とは、正味売却価格(net selling price)(資産の売却から得られる金額から処分費用を控除した金額)と使用価値(value in use)(資産の継続的使用と処分によって生ずる将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高い方の金額である。つまり、企業は、資産の売却と使用(使用後の処分を含む)のいずれかの手段によって、資産に投下された資金を回収できることから、売却によって回収される金額(正味売却価格)と使用によって回収される金額(使用価値)のいずれか高い方の金額が、その企業にとっての資産の価値であるとされるのである。使用によって回収する場合には、長期にわたる回収となるため、将来キャッシュ・フローを割り引いて算定される金額(現在価値)が用いられる。
 これは、米国基準と異なり、資産の回収可能性に関して、資産を保有する企業による合理的な見積りと、市場における評価(時価)のいずれかをもう一方に優先させてはならないという考え方によっているためである。
 また、減損損失を認識するかどうかの判定と減損損失の測定が、回収可能価額を用いて統一的に行われている点でも、米国基準と異なる。つまり、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを上回っているときにのみ減損損失を認識するといった「確率基準」は採用されておらず、帳簿価額が回収可能価額を上回っている場合には、常に回収可能価額まで帳簿価額を減額することとなる。
 さらに、回収可能価額が回復した場合には、減損損失の戻入れを行うこととされている点も特徴的である。

(3)海外基準とわが国の減損会計基準

 わが国の減損会計基準においては、これらの海外基準を検討した結果、減損損失を認識した場合の評価額としては、国際会計基準と同じ回収可能価額を採用することとした。しかし、減損損失を認識するかどうかの判定に関しては、減損損失の測定に見積りの要素が大きいこと等を考慮し、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って、減損損失を認識することが適当であるとされた。そこで、米国基準と同様に、割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比較することによって、減損損失を認識するかどうかの判定を行うこととなった。
 また、減損損失の戻入れについては、米国基準(継続して使用する予定の資産の場合)にならって、これを認めない基準となっている。
 このほかにも、資産に減損の兆候がある場合に減損損失を認識するかどうかの判定を行うこと、資産を適切な単位でグルーピングすることなど、海外基準の考え方を取り入れた点がいくつかある。





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