1.固定資産に関する現行の会計処理と減損会計の関係
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(1)現行基準と減損会計
固定資産を金融資産と事業用資産とに区分した場合、現行の企業会計においては、金融資産については、金融商品会計導入により、一部時価評価が取り入れられたが、事業用の固定資産については、取得原価から減価償却等の費用配分額を控除した金額で評価されている。
しかし、事業用固定資産であっても、従来から、臨時償却や物理的滅失・損傷による臨時損失といった帳簿価額の臨時的な減額が行われてきた。臨時償却は、耐用年数や残存価額の見積り修正に伴う減価償却の過年度に遡った修正であり、臨時損失は、帳簿価額のうちの滅失・損耗した部分に対応する減額である。減損会計は、これらに加え、資産の収益性(資産がどれだけのキャッシュ・フローを生み出すか)に着目して、過大となってしまった帳簿価額を臨時的に減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理である。
資産の収益性を反映する会計処理の検討が必要となった背景のひとつには、昨今の経済情勢がある。意見書は、「不動産をはじめ固定資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況において、それらの帳簿価額が価値を過大に表示したまま将来に損失を繰り延べているのではないかという疑念」が存在することをあげて、会計基準設定が必要となった事情を説明している。
(2)時価評価と減損会計
ところで、減損会計を時価評価と混同していると思われる論調が一部に見受けられる。そこで、減損会計と時価評価(金融商品)の違いについてここで簡単にふれておく。
金融商品の時価評価は、(1)資産価値の変動額に基づいて利益を測定することや、(2)決算日における資産価値を貸借対照表に表示することを目的にしている。例えば、売買目的有価証券やデリバティブの時価評価は、(1)と(2)の両方を目的とし、その他有価証券の時価評価は(2)を目的としているといえる。
一方、固定資産の減損会計はあくまで取得原価基準の下で行われる会計処理であると位置付けることができる。たしかに、減損処理を行った時点では、帳簿価額は、現在の資産価値を反映した回収可能価額(後述)と等しくなるが、その後は、減損処理後の帳簿価額に基づいて、規則正しい減価償却を行うことが求められている。また、帳簿価額を下方に修正することだけが定められ、帳簿価額を増額することは認められない。
英国や英国会計基準の影響が強い国々では、固定資産の再評価を行うことが会計基準で定められている。再評価においては、固定資産の帳簿価額は定期的に時価で評価換えされ、帳簿価額を増額する場合もある(むしろ増額する場合の方が多い)。また、これらの国々では、投資不動産についても、毎期末、時価で評価することが求められている。こうした会計処理については、固定資産の時価評価であるといえるが、減損会計は、原価基準の枠内で行われる帳簿価額の減額処理にすぎない。
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